▶️WACCを利用する意義

WACCは何のために利用すのか?それは、価値創造にまつわる様々な関係性の分析において、資金調達に関するものと、事業運営に関するものに分けてそれぞれについて深い分析を行うためです。

借り入れも株式調達も、調達すれば同じお金なので、事業の成果の可否についてフォーカスする意思決定の際に、どのように資金調達するのかを同時に考えるのは、規模の大きい企業だとあまり生産性ではない可能性があります。

大規模な企業ではいろいろな役割分担し、知識や経験についても専門性を追求するので、事業の本質に特化した意思決定を、資金調達の知識があまりない事業部長に促すためには、資金調達の方法は考えないようにした方がより生産性が高いといえます。

株主価値を計算する指標として重要ななのは、経営者の行動として分かり易く、行動変容を促すという視点も実務的には非常に重要です。よって、事業部長には純粋に事業にフォーカスしてもらい、資金調達については、財務部長にフォーカスしてもらうような行動変容を動機付けするのが望ましいと言えましょう

よって、その視点も重視して、企業経営トップとしては、財務部長(CFO)が考えた最適な資本負債構成などを所与として、調達したお金に対して、どのぐらいの標準的なリターンが偏差値50に相当するのかを考えてもらい、その数字を前提に企業全体として借り入れの調達と株式での調達の割合を所与としてその二つを加重した、加重平均資本コスト、**Weighted Average Cost of Capitap (WACC、ワック)**をまず計算して、それのWACCを使って事業部長が事業に関する意思決定を行っていくことは手間がかかりますが、望ましい行動変容を促すためには、有用といえましょう。

なお、以上考えると、WACCは大規模な企業の経営管理に有用であり、必ずしも投資家にとって有用かというと、そうでもないと考えられます。しかし、投資家からみてもWACCをベースに分析することは、分析対象の企業についての「資金調達」の視点と「事業運営」の視点を分けて考えることができるので、より精緻な視点で物事を分析することができるようになるので、メリットがあると言えます。例えば、事業運営が非常にいいのですが、資金調達が今一つの企業があれば、資金調達戦略を改善すれば株価上昇の可能性があると分析できます。そのような視点を踏まえたうえで分析対象企業の経営者と対話することは、より深い長期的な視点で分析が可能になります。

▶️WACCの定義式

では具体的にWACCはどのように計算するのでしょうか?いろいろな方法がありますが、弊社では一般的に利用されている方法を利用しています。

計算式は以下です。より詳細な計算方法は、JPRが算出するWACCの説明 をご覧ください。

$$ WACC=\frac {E} {E+D}×COE+\frac {D} {E+D}×COD \\  \\ E=時価総額、D=有利子負債簿価 \\  \\ \frac {E} {E+D} : 時価総額のウェート=株主資本のウェート \\  \\ \frac {D} {E+D} : 有利子負債額のウェート \\  \\ COE=株主資本コスト \\  \\ COD=税引き後有利子負債コスト $$

▶️ウェートは時価総額が基本

ここでのポイントは株主資本のウェートは時価総額を使うことです。なぜならば、新しい株主は時価総額で投資しているからです。有利主負債額も本当は時価を使うべきですが、株主資本ほど簿価と時価が差がないだろうという前提で、実務的には、簡易的に簿価を使います。

疑問点については以下をご参照ください。

なぜ資本コスト計算で時価総額を使うのか?