神奈川県立青少年センタースタジオHIKARIにて、趣向による『べつのほしにいくまえに』を観た。考えたことを記す。
本作は、いまだ異性婚しかできないとある国の、少し未来の話だ。「互助・共助のための結婚法」(詳細は後述)が可決し施行される1年前から、その当日の朝までを描いた世界の物語である。
今、私が住む現実の国では、異性婚しか認められていない。現在、結婚が同性間に認められていないことを違憲と主張する訴訟が全国各地で行われている。日本では同性婚ができない。そこから同性婚ができる世界へ移行するべく、奮闘しているのが現状だ。
それと比較し、この作品が移行しようとする先の世界は、同性婚を超え、互いをケアしあおうと関係性を結ぶ2×n者間に「結婚」という契約・保障を提供する世界だ。もはやこの世界、我々のいる星と地続きでない、べつのほし、だと言っていいくらい遠いところだ。
この作品を見るとよく分かるが、その移行の幅・距離は広い。だからこそ、それによって生まれる戸惑い・葛藤・軋轢も大きい。 しかし、そこで生まれる軋轢は、互いが幸せになるために、互いが関係し合おうとする人間同士の、本質的な対話によって発生するものだった。結婚という国家が提供する制度に存在する制約が、取り払われてもなお生まれる議論や対話、幸せに生きるために必要な本質的な対話が、どうにも愛しく、私は号泣した。同性婚すらできない日本を生きるゲイである私にとって、その対話はあまりに愛しすぎた。そしてそのほしの煌めきが、我が星に落ちる影を色濃く際立てるのだ。
此処から先はぜひ、作中で印象的に用いられていた劇伴 The Album Leaf - In a Safe Place をBGMにお読みください。
https://youtube.com/playlist?list=OLAK5uy_n8DF-XJJUOU3dLoeX94UIU_Q2r62zn8l4&si=WDmR3aU_5wNcKj8p
https://open.spotify.com/album/1sZjWlyc9yL13U5q1nTQ8a?si=KE-ym1aZSZKOIlXHG7BCDQ
まず、趣向の公演情報ページに記載のあらすじを引用する。
少し未来のとある国の話。徐々に下がる婚姻率に危機感を覚えた政府は「互助・共助のための結婚法」を立案、施行しようとする。それは、性別や人数、恋愛関係の有無に関わらず、ケア関係にある人間たちが「結婚」できることになる法律だった。これによって恋愛関係にある男女はもちろん、同性カップルの結婚も可能になり、友情関係から結婚を選ぶ人々も増加。婚姻率は15年ぶりに上昇する。家制度や恋愛から解き放たれた「結婚」はより多くの人生を生きる方へ導くのか。シェイクスピア『夏の夜の夢』と同じ名を持つ登場人物たちで語られる「結婚」についての物語。
本作、趣向『べつのほしいにくまえに』を観て議論を尽くしたいことは無数にあるが、本稿では取り上げる論点を以下の3つにしぼりたい。
①結婚の射程が、性別を問わずケアする2×n者にまで広がったとき、どんな問題が生まれるか(同性婚は、ゴールではなく通過点) ②なぜ結婚の射程をケアまで広げる必要があるのか(「最小結婚」を参考に) ③妖精はなんのメタファーか(どんなに理想的に見えるほしに移行しても、私たちは誰かを取りこぼしてしまい得る)
各論点の検討に入る前に、当日パンフレットとして配布された資料「『べつのほしにいくまえに』用語集」(作成:オノマリコ、深海菊絵)から、関連する項目を引用しておく。(以降本稿における引用に対して追加している下線・太字は本稿著者による強調である。)
互助・共助のための結婚制度 オノマリコの創作『べつのほしにいくまえに』の中で施行されようとしているフィクションの結婚制度。恋愛関係・性愛関係に縛られず、ともに思いやって生きることを選択した人間同士が「結婚」できる。成人した人間同士であれば、異性婚も同性婚も可能。また結婚は二親等から可能になり、親子間では結婚はできない。ただ過去に普通養子縁組を行っていた人たちが離縁したあとに結婚を選択することは可能(特別養子縁組では不可能)。また、ケア関係が重複する場合には、複数の人との結婚も可能になる。
オープンダイアローグ 「開かれた対話」を意味する。フィンランド西ラップランド地方で開発された精神科医療の包括的なアプローチ。治療としてのオープンダイアローグでは、患者・その家族・治療者が集まり、その場のルールにしたがって、対話を続ける(その際、医者に「先生」と言わないなど、権カ勾配を和らげるルールがある)。現在は自助グループやミーティンググループなどでも応用して使われている。
オープンダイアローグに関するおすすめの書籍:2021 斎藤環、水谷緑『まんがやってみたくなるオープンダイアローグ』医学書院