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ドルや円など既存の法定通貨に価値が連動する「ステーブルコイン」と呼ばれるデジタル資産に対し、主要な国や地域の当局が規制導入の動きを加速している。流通時価総額が膨らみ、信用不安などの市場混乱が起きる危険性への懸念が強まったためだ。

一定量の現預金や国債などの裏付け資産の保有、一定の自己資本比率の確保、預金保険加入といった銀行並みの利用者保...

ドルや円など既存の法定通貨に価値が連動する「ステーブルコイン」と呼ばれるデジタル資産に対し、主要な国や地域の当局が規制導入の動きを加速している。流通時価総額が膨らみ、信用不安などの市場混乱が起きる危険性への懸念が強まったためだ。

Nikkei Views

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一定量の現預金や国債などの裏付け資産の保有、一定の自己資本比率の確保、預金保険加入といった銀行並みの利用者保護の仕組みを発行主体に義務付ける方向で各国・地域の足並みがそろってきた。実際に世界各地で規制が実行されると、資本力のある金融機関以外の企業による自由なステーブルコイン発行の余地はかなり狭まりそうだ。

一方、各国で中央銀行や民間銀行がドル、円、人民元など法定通貨の利便性を高めた「デジタル通貨」の流通に乗り出す動きを見せる。ステーブルコインは規制の枠外にありながらあたかも法定通貨のように機能することで勢いを増してきたが、法定通貨そのもののデジタル化による「逆襲」で駆逐される可能性も出てきた。

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ドルと連動する「テザー」と「USDコイン(USDC)」に代表される法定通貨連動型ステーブルコインの世界流通時価総額は12日現在1485億ドル(約16兆8千億円)で、昨年末の5倍強に膨らんだ。各国・地域の当局は市場混乱リスクのほか、犯罪が絡んだ資金洗浄への悪用についても懸念を深めていた。

円やドルなど法定通貨で額表示された金銭を紙や電子システムで送る「為替取引」の一種にあたる――。日本の金融庁は2021年秋、法定通貨連動型ステーブルコイン取引について、審議会などで見解を示した。現行制度で為替取引は、銀行免許が必要な銀行業務のひとつと銀行法で定められている。認可または登録が必要な資金移動業者にも、額や業者滞留期間を限定して許されている。

同庁はこのほど、「為替取引にあたる」との解釈を明示化し、発行を銀行か資金移動業者に限定するステーブルコイン規制を実施する方針を固めた。仲介については暗号資産交換業者(いわゆる仮想通貨取引所)が取り扱いを続ける場合は資金移動業登録も義務付けるのか、現金による払い戻し能力を担保するための預託金などの義務付けのあり方をどうするのかなどの詳細を今後詰める。

欧州連合(EU)は現在、暗号資産市場の包括的な規制体系(MiCA規制)の案を詰めている。11月に公表された案では各ステーブルコインの流通を各国当局の許可制としたうえで、発行体に流通時価総額の数%にあたる自己資本の確保を義務付け、金利の付与を禁止するなど、厳しい内容になっている。米国でも大統領に諮問され財務省が運営するワーキンググループが11月、ステーブルコインの発行者は保険に加入した預託機関であるべきだとし、預託機関の代表である銀行と同じレベルの保護体制を義務付ける法規制の導入を議会に求めた。

「通貨建て資産」に分類の公算

規制案を検討する各地域の当局に共通するのは、ドルや円など既存の法定通貨に連動するステーブルコインは「暗号資産」というより電子マネーやスマートフォン決済サービスと同様、デジタル化した法定通貨に近いものととらえる認識だ。日本は新たな規制導入を機に、ステーブルコインをスマホ決済アプリの利用可能額残高などと同じ「通貨建て資産」であると明示的に分類する公算が大きい。

今後は世界各地でステーブルコインは法定通貨の表現形態の一部と扱われ、中銀・金融規制当局の規制の枠組みの内側にがっちり組み込まれることになりそうだ。新興企業が「採掘」によって発行し、他の企業が独自に「金利」をつけて資金調達に使ったりする、現在の自由な使われ方の存続はかなり危うくなってきた。

ステーブルコインにとって前門の虎が規制だとすれば、後門の狼(おおかみ)は既存の法定通貨そのもののデジタル化の波だろう。規制によってステーブルコインは法定通貨と同じ土俵での競争を迫られるからだ。

法定通貨のデジタル化の流れは大きく2つある。まず中央銀行が直接市民や企業に対する負債として発行する「中央銀行デジタル通貨(CBDC)」だ。もうひとつが、民間銀行が個人や企業の預金を直接デジタル決済で使えるようにする預金型デジタル通貨の導入に向けた動きだ。

CBDCは日本を含む多くの国や地域で技術実験や実際に市中で試す実証実験が進む。中国は「デジタル人民元」の市中実証実験を、21年は14の省・市に広げ、延べ2億6千万元(約46億円)のデジタル人民元を抽選で希望者に配って流通動向や課題を調べている。実施地域では米マクドナルドや仏カルフールといった外食・小売りチェーンが参加して実際に流通する。22年中に全国に対象地域を広げる計画で、実用化一歩手前まで来ている。