先駆者だった日本で普及が進まない理由が明らかに

世界に先駆け、暗号資産(仮想通貨)を運用するための法律を定めた日本。それ以来、ブロックチェーンに夢を抱くエンジニアや実業家から注目されてきたが、なぜか普及が進まない。今回、SlowNewsの取材で、その原因が初めて明らかになった。

暗号資産の新規上場案件(ICOやIEO)や海外で取引されているトークンの国内審査などを司る一般社団法人・日本暗号資産取引業協会(JVCEA)の審査が一向に進まず、昨年の10月末時点で、審査案件が82件も滞留していることが分かったのだ。その実態を浮き彫りにする社団法人の議事録も独自に入手した。

JVCEAは、業界大手のコインチェック社長の蓮尾聡氏が会長を務め、選任された各事業者の代表や外部識者が理事に就く自主規制団体である。国内法に準拠して交換業を行ったり、新たな暗号資産をリリースするには、JVCEAの審査をパスする必要があるが、その審査が著しく遅れている。

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一般社団法人・日本暗号資産取引業協会(JVCEA)のHPより

このままでは国内の暗号資産マーケットの成長を阻害し、投資家の機会損失につながるおそれさえある。

滞留している審査の内訳は、昨年10月末時点で、日本初の新規案件が30件、世界で既に流通している既存通貨の審査が36件、新興取引所の入会審査が9件、そのほかの新規上場案件が2件。

金融庁の暗号資産交換業者に登録する取引所は、現在30社あるが、世界的に信用力のある暗号資産の分析会社CoinGeckoの時価総額ランキングのトップ10位のうち、日本の交換業者で取引できないコインは4銘柄あり、トップ20位に枠を広げれば、半数以上の11銘柄に上っている(※取引所が独自にリリースするコインは除く・2月15日現在)。

JVCEAが公表する会員の「暗号資産取り扱い状況」によれば、国内の取り扱い暗号資産は44。その内、取扱い数が最も多いのはGMOコインで19銘柄、次いでコインチェックが17銘柄となっている。これに対して、世界展開しているコインベースは5銘柄にとどまっている(2月17日現在)。コインベースは米資本であり、グローバルマーケットでは150銘柄を超える暗号資産を取り扱っている取引所だ。

国内で取引できるコインの少なさに不満を持つ投資家や取引所は、少なくないのだ。

理事会議事録に示された金融庁の怒りの中身

国内の取引所で扱われない暗号資産について投資家は海外の取引所を利用するしかなく、暗号資産取引について定められた日本の法令(資金決済法)の保護が受けられない。

こうした事態に、金融庁がJVCEAに対し「大変厳しい指摘」をしていたことも、今回、明らかとなった。

SlowNewsが入手した、JVCEAの「理事会議事録」にはその様子が記されている。

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入手した議事録

議事録によれば、2021年11月4日に開かれた金融庁とJVCEA理事らの懇談会で、金融庁幹部から審査案件の82件の滞留の問題に加えて、上場審査プロセスとマネーロンダリング対策であるトラベルルールの策定に懸念が示された。

その要因を、金融庁はJVCEAの理事や事務局、また会員の事業者との間にコミュニケーション不足が生じ、規制団体を運営するにあたって、ガバナンス不良が生じていると認識している模様だ。

実際、JVCEAの会員企業の幹部は怒り心頭に発している。