- 2020年10月のFSBハイレベル勧告発表以降の市場・規制の動向を論じるもの。
- 国際レベルでのさらなる作業が必要な項目として、以下を挙げている。
- グローバルStablecoin認定条件
- グローバルStablecoin機能の提供者(ウォレット提供者など)への投資家保護などの要件
- 償還権
- クロスボーダー・セクター間の協力
- 相互承認
- まず、Stablecoinに個人投資家の参加が増えると、金融システムへの信頼低下を通じ広範な金融安定性の問題を起こす可能性があるとしている。
- その上で、Stablecoinが複数の国・地域で決済手段や価値の保存手段として金融システムの主流となる場合には、Global Stablecoin(GSC)になる可能性があると指摘。
- こうしたGlobal Stablecoin(GSC)の出現は、既存のStablecoinよりも金融安定性に大きなリスクをもたらし、既存の規制・監督・監視アプローチの包括性・有効性に楯突く可能性がある。そのため、セクターや法域を超えた適切な規制・監督・監視を確保することが必要としている。
- Stablecoinの状況が急速に進化し、各国で規制・監督方針が策定されているため、各国間で規制のアプローチや分類の違いが大きくなっている可能性があると指摘。こうした違いは裁定・断片化のリスクを生む可能性があるとし、国際的なレベルでこれらの課題に取り組むの意義を強調している。
- 各地域での主な規制の取り組みとして、EU・シンガポール・米国・英国の動向について紹介している。
- EUでの動向について
- EU1) EUでは、欧州委員会が、暗号資産市場に関する規制の提案(MiCA)を発表し、立法へむけた議論中。Stablecoinを含め既存の金融サービス法でカバーされていない暗号資産に対する包括的な規制の枠組みを定めるもの。
- EU2) その目的は、「法的確実性を確保してイノベーションを可能にし」、「適切なレベルの消費者保護と市場の健全性を提供する」とともに、「金融安定性・金融政策・通貨主権リスクを軽減する」ことにある。
- EU3) Stablecoin発行者が、資産バスケットを参照するStablecoin(資産参照型トークン:ART)を発行するか、単一の公式通貨を参照するStablecoin(電子マネー型トークン)を発行するかに応じて、異なる義務を定めている。
- EU4) 共通点:双方ともにEUでの認可要件の対象となり、暗号資産ホワイトペーパーを作成しなければならない。
- EU5) 資産参照型トークンについては、ガバナンス、ユーザーへの情報提供(準備金の管理を含む)、苦情処理、利益相反の防止、秩序ある解散、に関する義務を定めている。また、準備金アセットの投資、準備金アセットのカストディ、保有者の権利に関する義務も含まれる。
- EU6) 電子マネートークンについては、電子マネーであるゆえ別の定めがない限り電子マネー・決済サービスに関する既存の法的枠組みの要件が適用される他、保有者は発行者に対して額面で直接請求権を有するとし、準備金によって完全に裏付けられている必要があるとしている。
- EU7) さらに、「重要なStablecoin」を定義するための基準として、「顧客基盤の大きさ・トークン発行金・取引額・準備資産量、クロスボーダー活動、金融システムとの相互関連性などを」定めた上で、発行者への追加要件として、「報酬、流動性管理方針、相互運用性、より高い自己資金要件」と定めている
- EU8) 暗号資産サービスプロバイダーとして、ウォレットプロバイダー・取引プラットフォーム・取引所の運営者などを規制するとし、これらには既存の金融商品関連規則をモデルとした、認可要件・組織・プルデンシャル・その他の規則が適用されるとしている。
- シンガポールの動向について
- SG1) シンガポールMASは、2019年12月にパブリックコンサルテーションを発行し、特にStablecoinを対象とした暗号通貨の規制上の取扱について意見を求めている。
- SG2) Stablecoinが電子マネーと暗号通貨どちらに分類されるかによって規制の優先度が変わるとしている。電子マネーサービスは、顧客資金を保護するために規制される一方、暗号通貨サービスは、AML/CFTリスクについて規制されるほか顧客に損失のリスクを警告する情報開示が求められる。
- SG3) Stablecoinが単一通貨型か複数通貨型なのか、発行者の請求権があるか、裏付け資産に応じて支払い手段あるいは投資商品として扱うべきか、などで見解が分かれた。MASは、Stablecoinの実用性とリスクを考慮し、異なる法律の下での取り扱いなど、Stablecoinの適切な規制上の取扱を検討中。
- 米国の動向について
- US1) 大統領WGとして、Stablecoinの潜在的メリットとリスク、現行規制枠組み、規制上のギャップに対処する推奨事項などについて、Stablecoin報告書を作成中。
- US2) 大統領WGの作業は、2020年12月に発表された、Stablecoinへの規制監督上の考慮事項に関する声明を踏まえたものであり、米国との関連性があり主にリテール決済での利用を目的としたStablecoinを対象としている。
- US3) 2020年7月、通貨監督庁(OCC)は、国立銀行が暗号通貨のカストディアン・サービスを顧客に提供することは銀行業務に該当し、法的に許容されるとする解釈を発表。またOCCは国立銀行が発行者と契約を締結し、償還要求を満たすのに十分な準備金があることを定期的に確認できるようにすべきしている。
- US4) 2021年1月には、通貨監督庁(OCC)は、国立銀行が「独立したノード検証ネットワーク」(INVN)とStablecoinを使うことに言及する書簡を発行している。
- 英国の動向について
- UK1) 大蔵省が2021年1月に、暗号資産およびStablecoinについてパブコメを発表し、Stablecoin含めた暗号資産の分類や規制目的(金融安定性と市場保護・消費者保護・競争促進・英国の競争力支援)、規制原則としての「同一リスク同一規制」について意見を求めている。
- UK2)パブコメではリテール・ホールセール決済に使用できるStablecoinは認可制度の一部として最低限の保護を受けることを提案。アルゴリズム型Stablecoinは、裏付のない取引所トークンに似たものとして、価値の安定性リスクがありリテール・ホールセール決済に適さないとして制度から除外している。
- UK3) Stablecoinが支払手段として使用される要件として、認可、資本、流動性、会計監査、資産準備金維持管理、秩序ある破綻/倒産、トークン保護、システム/統制/リスク管理/ガバナンス、通知報告、記録保持、金融犯罪、運用回復力・サービス信頼性・継続性、セキュリティ等を挙げている。
- UK4) Stablecoinがシステミックな規模に達した場合には、既存のシステミックな決済規制の対象として、運営者・発行者・サービスプロバイダーは英中銀BoEによる規制や金融市場インフラ原則(PFMI)に基づく要件の対象となる。
- UK5) BoEの金融政策委員会は、Sytablecoinは従来型決済同等の基準で規制されるべきとした他、価値の安定性・法的主張の堅牢性・不換紙幣での換金能力に関して、商銀貨幣と同等の基準を満たすべきとしている。
- UK6) 貨幣として使用されるStablecoin規制には、現在の銀行制度の特徴を組み込む必要があるとし、①預り元本を不換紙幣で迅速に償還できる法的請求権、②倒産リスクを低減する資本要件、③償還を確実に行い、流動性の問題で破綻しない流動性要件、④破綻処理・保証スキーム、を挙げている。
- UK7) Stablecoinが銀行として運営されていない限り、裏付け資産は常に発行残高をカバーする必要があり、強固な準備金管理が重要な要件となることを強調している。
- さらに、国際基準見直しとして、IOSCO、CPMI、FATF、及びBCBS・FSBが既存基準適用を評価している。例えば、クロスボーダーでの監督協力に関するIOSCO原則、金融市場インフラに関するCPMI-IOSCO原則、FATF基準(特に勧告15)、BCBS・FSBのクロスボーダー銀行監督・危機管理に適用される関連原則。
- BCBS(バーゼル銀行監督委員会)は、暗号資産、暗号資産支払い、暗号資産建て、または暗号資産にリンクした資産・負債へのエクスポージャーから生じるキャッシュフローリスクを適切に把握するため、調整の必要性について調査中。
- CPMI-IOSCOのレポートでは、当局がStablecoinがシステム的に重要かどうかの判断事項として、①サイズ、②性質およびリスクプロファイル、③相互接続性・相互依存性、④代替可能性を挙げている。
- IOSCO(証券監督者国際機構)は、2020年3月のGSCレポートでGSCの提案が証券市場の規制当局に与える影響として、その構造によっては、証券や金融商品・サービスに典型的な特徴を示す可能性があると結論づけている。MMFに関する政策提言などのIOSCO基準がStablecoinに適用される可能性があるとしている。
- FATFは、2021年11月までに、VASPガイダンスを改訂するとしており、FATF基準がStablecoinにどのように適用されるかについてのガイダンスを提供するとしている。Stablecoinは、仮想資産としても伝統的な金融資産としてもFATF基準の対象となるとの見方。
Fostering the soundness of “global stablecoins” is Building Block 18 of the FSB roadmap to enhance cross-border payments.
This report:
discusses key market and regulatory developments since the publication of the FSB high-level recommendations in October 2020;
takes stock of the implementation of the FSB high-level recommendations across jurisdictions;
describes the status of the review of the existing standard-setting body (SSB) frameworks, standards, guidelines and principles in light of the FSB high-level recommendations; and
identifies areas for consideration for potential further international work.
The report notes that, overall, the implementation of the FSB high-level recommendations across jurisdictions is still at an early stage. Jurisdictions have taken, or are considering, different approaches towards implementing the high-level recommendations, which could give rise to the risk of regulatory arbitrage and harmful market fragmentation.
The report also notes that standard-setting bodies, including BCBS, CPMI, and IOSCO are assessing whether and how existing international standards and principles may apply to stablecoin arrangements and, where appropriate, adjusting them in light of the FSB high-level recommendations. The report stresses that a number of issues may not be fully covered by existing standards and principles and that gaps should be addressed in a holistic manner that is coordinated across sectors..
Authorities have identified several issues relating to the implementation of the recommendations that may warrant further consideration and where further work at international level could be useful. These include: conditions for qualifying a stablecoin as a “global stablecoin”; prudential, investor protection, and other requirements for issuers, custodians, and providers of other global stablecoin functions (e.g. wallet providers); redemption rights; cross-border and cross-sectoral cooperation and coordination; and mutual recognition and deference.