人間の嗅覚が麻痺するまでに必要なのはわずか30秒だそうだ。 そのおかげで、兵士たちは極端な環境の中で、乾いたパン片を喉に押し込むことができる。 いや、実は麻痺したのは嗅覚だけじゃないだろう。 2時間前までは塹壕の隅にうずくまって手紙を書いていた同僚の死地が砲弾によって目の前で爆発してしまうのだ。 誰のものか分からない血の塊が腐敗して染み込む嫌な匂いと、小さなウジが薄い布切れと肌の間を這う感覚。 切られた手足を握りしめて死んでいく仲間たちのうめき声。 熱病。このすべてに吐き気を催していたある兵士は、結局銃口を口にくわえて引き金を引いた。 彼が戦場に追いやられてから2日目のことだった。
麻痺したのは人間性だ。 彼らはそうなるよう強要された。 銃は刀と違って相手を殺す感覚が指先に残らないという事実が兵士たちに良いことなのか悪いことなのか分からない。 それを判断する理由も余力もない。 考えを続けてはいけない。 考えるな。 生き残るために。 そのように極限に追い込まれた人間の思考は、すでに論理構造を失う。 最後まで本能的につかむことになるのは、愛する者たちに対する懐かしさと信仰心だけだった。 主よ、私の罪をお許しください。 しかし、これが果たして赦免が可能な罪なのか。
ガーゴイルはその日初めて、誰かが自分によって死んでいく感覚を生々しく感じることができた。 銃剣の先に押されたあなたからは死にかけているうめき声が聞こえてくる。 握った銃隊を通じて伝えられるのは、細かく震える弱い生命力だった。 ああ。顔が見えなくてもわかる。 私の下に押しつぶされているこれらはすべて、私より若い少女のものだ。 これまで固く麻痺していた何かの正体を自覚する頃、薄い木の枝が折れる音が聞こえてきた。 淡いりんごの木のにおい。 赤いベリー。そしてアグネス。
Cuddle
「マリー?」
「⋯。」
頭のてっぺんまで自分を飲み込んでいた泥の塊からやっと抜け出したような感覚を感じながら、マリアンヌは息を深く吸い込んだ。 目を開けると見えるのは小さな風車のある野原。 背中をもたせていた木の茂った葉の間から暖かい日差しがまるで教会の中のステンドグラスのように差し込む。 しばらく忘れていたその優しい温もりを改めて確認したガーゴイルは、私のそばに並んで座った赤い髪の幼い騎士が心配そうな顔で自分を眺めていることを一歩遅れて悟った。 彼女は軽く首を横に振ったが、機敏な騎士であり医師はあなたが捕らわれていたのが戦場での悪夢であることを難なく知ることができた。
「⋯戦争が終わったら相談を受けるのもお勧めします」
「いや、これは私がただ背負わなければならない罪の代償だから」
「それは誰のせいでもありませんでした」