- 本章では、視覚野の単純型細胞を取りあげる。
- 3章の反射理論は、実験条件の単純化だった。4章のコンピューターというアナロジーを使った脳の単純化だった。本章の視覚野の単純型細胞は、その組み合わせの例となっている。
- 単純型細胞という概念は、人工的なものだが、しかし反射理論と違って、理論的・技術的有用性をもつものである。
- この10年間で、ビッグデータや動物行動学的な方法への転換が進んだが、人工物(artifice)が消え去ったわけではなく役割を変えたとみるべきである。
5.1 The Creation of the Simple Cell 単純型細胞を作りあげる
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5.1.1 The Experiment-to-Model Pipeline 実験からモデルへのパイプライン
- しかし、単純型細胞は、実験室で行動の抑制と刺激の制限により創りあげられるものである。
- Masland and Martin (2007)「実験生理学者ならだれでも、感覚系が線形になるのは、実験者がそう強制したときだけであることをよく知っている」
- Hubel&Wieselなどは、麻酔下の動物を使っていた。麻酔は皮質の自発活動を抑制する。
- スポットやバーのような単純な人工刺激は、皮質の可塑性により単純な応答をもたらす。
- ある方向のバーだけ提示することは、それ以外の受容野を持つニューロンからのモジュレーション効果を抑制する。
- 統制された実験を行うために用いられた麻酔と人工刺激は、脳の適応性のために、規則的で線形な反応プロファイルを誘発したと考えられる。
- 図5-2を、「実験からモデルへのパイプライン」と呼ぶことにする。
- **「1.野生の脳活動」は統制された実験条件により「2.実験室の脳活動」**に変化。
- それが測定を経て**「3.データセット」**に。
- 例:Hubelの時代にはシングルユニットの測定しかできず、多数の細胞間の相関を見ることはできなかった。わかりやすい単純型細胞や複雑型細胞を計測しがちになる。
- その後、様々なデータ処理を経て**「4.現象=理想パターン」**が作られる。
- 例:同じ刺激に対する複数の試行が平均化される。もしくはF1/F0 比が用いられる。
- **この段階で初めて「単純型細胞」が現れる。**単純型細胞の応答プロファイルは、実験条件、測定、データ処理の以前からあったものではない。
- 現象=理想パターンは、計算論的に解釈されると**「5.説明モデル」**となる。
- 脳内で特定の情報処理タスクを実行すると仮定されると、上流から入力を受け取り、計算して、下流へ送ると説明される。
- 説明モデルは、実験条件、測定、データ処理を方向付けることも多い(逆向きの矢印)。※「理論(モデル)負荷性」ということだと思う。

5.1.2 Scientific Phenomena as Ideal Patterns 理想パターンとしての科学的現象
- Bogen and Woodward (1988)以降、生データではなく「現象」が説明モデルの対象であるとされてきた。
- 例:鉛の融点は、自然界に存在する規則性から、実験や統計処理などで取り出した「現象」。
- 本書では、神経現象はリアルパターンではなく、理想パターンであると主張する。
- リアルパターン:実験室だけでなく、野生の自然界に存在する規則性
- 理想パターン:図5.2の単純化の手順による生み出される規則性
- Potochnikの「リアル因果パターン real causal patterns」は、データからノイズを除去して得られるパターンで、それを見いだせるエージェントの存在に依存せず実在する。
- もともとの Dennett (1991)のリアルパターンは、もう少し実在論色は薄かった(used it in
a less robustly real sense)。