かつて私は、ある修道院の指導者から、次のような話を聞いたことがあります。「修道院の門をくぐってくる人は皆、最初は間違った動機を抱えて訪ねてくるものです。」これと同じことが心理療法を学ぶ人にも言えます。
Anthony Storr 著, 吉田 圭吾, 佐藤 淳一 訳「心理面接の教科書: フロイト、ユングから学ぶ知恵と技」(創元社, 2015) 第十四章「心理療法家のパーソナリティ」p244-245
<aside> 💡 以前の講義「そもそもカウンセリングって何? -概論-」で、「カウンセリング」の定義の多様さについて紹介しました。
"カウンセリング"という言葉の定義が曖昧で多様である以上、「カウンセラー」の定義も多様にならざるを得ません。まずは、カウンセラーと似た単語として、**"心理士"や"心理療法士"**といった単語を取り上げ、位置付けを整理します。
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以前の講義「そもそもカウンセリングって何? -概論-」より再掲
(広義の)カウンセラー
「労働者の職業の選択、職業生活設計又は職業能力の開発及び向上に関する相談に応じ、助言及び指導を行うこと」
参考:厚生労働省「キャリアコンサルティング・キャリアコンサルタント」
心理カウンセラー
心理療法士(psycotherapist)
<aside> 📚 最近は、"心理士"のメインの役割は、カウンセリングよりも、むしろ心理アセスメントや心理教育などであるとする考え方が主流になりつつあります。東京大学の丹野義彦教授らが2015年に書いた教科書である「臨床心理学」(有斐閣)の「心理士とカウンセラーの違い」という節や、2021年の公認心理師の活動状況等に関する調査から、"心理士"の役割についての記述を見ておきましょう。
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丹野義彦先生の記述より
イギリスやアメリカの制度から見ると、日本の心理士養成はカウンセラーの段階に留まっている。欧米のような博士課程での心理士養成は、日本ではまだ定着していない。今後は、日本にも、本格的な心理士を要請する制度を定着させることが必要である。
丹野義彦他「臨床心理学」 p368
イギリスでは、臨床心理士、心理療法家、カウンセラー、精神科医といった役割について、下記の違いがある
後掲 丹野他 2015 p366
note: 丹野先生の立場
心理士とカウンセラーの違い(イギリスの場合を例に)
「心理士」は、必ずしもカウンセリングが主な仕事ではない
日本公認心理師協会「公認心理師の活動状況等に関する調査」 p193(各業務にカッコ内に示している数字はその活動を行っている公認心理師の割合)