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絵画、写真、映画、テレビ等の視覚表現や、脳内で見る夢や言葉にならない曖昧な印象、そして目に見えるものから心の中に浮かんだことまでを、イメージという語で指し示すことができます。このようなイメージに形を与えることを、本展では「イメージ・メイキング(image-making)」と呼びます。 科学的探究心と技術の発展により、光学を利用したイメージ・メイキングが飛躍的に進化したことで、人間の視覚を正確に再現するだけでなく、本来肉眼では見ることはできないイメージまで作り出すことが可能になりました。このことは、多くの芸術家たちに刺激を与え、視覚的表現の可能性を拡げた一方で、技術的なルールを課すことにもなりました。 本展では、東京都写真美術館の収蔵資料であるイメージ・メイキングのための装置や機器の展覧を通して、その一様ではない技術や原理を紹介するとともに、イメージ・メイキングの技術の仕組みや道具に注目し、分解したり要素を組み替えたりしながら、標準化されたイメージへの批評を加えて、イメージ・メイキングを新たなものとして再発明してきた作家たちの作品を紹介します。 イメージには実体があるわけではありません。イメージは、作家が制作した作品やコンピュータや映像装置から出力された場所を支持体にして、その形を変えながら広く伝わっていきます。そして、視覚を通じて外的なイメージを認識するだけでなく、想像力によって内的にイメージする私たちも、イメージの担い手なのです。

【TOPMUSEUM Podcast】 本展出品作家の藤幡正樹さんと気鋭の研究者・原島大輔さん(基礎情報学/表象文化論)をお迎えして、テクノロジーやイメージ・メイキングについて深く切り込んだトークをしていただきました。Spotify、Apple Podcast、Google Podcastsからご視聴いただけます。

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藤幡正樹| 1956年、東京生まれ。メディア・アーティスト。80年代は主にCGを扱った作品の制作、90年代はインターネットやGPSなどの先端テクノロジーに取り組む。96年には《Global Interior Project #2》でアルス・エレクトロニカのゴールデン・ニカを受賞。インタラクティヴな書物をテーマにした《Beyond Pages》は1995年以降世界数十ヶ所で展示された。1992年の《生け捕られた速度》から2012年の《Voices of Aliveness》へと続く「Field-Works」シリーズでは動画にGPSによる位置情報を付加することで仮想空間と現実空間をつなぎ、記録と記憶の新しい可能性を多数の作品群へと展開。2016年には、70年代から現在までの主要作品をARで見ることのできるアーカイヴ本『anarchive #6 Masaki Fujihata』をフランスで出版。最新プロジェクトは、残された写真を参照しつつその時代の人々の営みをARを用いて現在に再現するもので、2018年の香港での《BeHere HongKong》(企画:osage art foundation)に続いて、1942年に起きた日系人強制収容をテーマとする《BeHere /1942》 が、2022年全米日系人博物館で発表された。

原島大輔| 1984年生まれ。早稲田大学次世代ロボット研究機構研究助手。専門は基礎情報学、表象文化論。著書に『AI時代の「自律性」未来の礎となる概念を再構築する』(共著、勁草書房、2019年)、『基礎情報学のフロンティア人工知能は自分の世界を生きられるか?』(共著、東京大学出版会、2018年)。訳書にユク・ホイ著『再帰性と偶然性』(青土社 2022年)など。

展覧会の構成1 映像装置:多種多様なイメージングの装置 人間はこれまで多種多様なイメージ・メイキングを試みてきました。ここでは、その痕跡であるさまざまな映像装置とその原理を紹介します。光学的なイメージ・メイキングの道具である「カメラ・ルシーダ」、動いていないものを動いて見せる仮現運動を利用した「ゾートロープ」、20世紀初めに制作された35ミリフィルム映写機などを展示します。

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左上から: キノーラ(レンズつき、イギリス製) [参考図版]、ゾートロープ、カメラ・ルシーダ、35㎜フィルムプロジェクター兼マジックランタン すべて東京都写真美術館蔵

2 アート・エクス・マキナ:コンピュータによる「美」の分解 〈Art Ex Machina〉(アート・エクス・マキナ)は、ジル・ゲールブランドによって1972年に出版された版画のポートフォリオです。コンピュータでイメージ・メイキングした6名の作家は、いずれも1960年代からコンピュータ・グラフィックスに取り組んだパイオニアたちであり、今日のジェネラティヴ・アートの先駆けともいえます。作家のうち、ゲオルク・ネース、フリーダー・ナーケ、川野洋らは、哲学者・美学者であるマックス・ベンゼの「情報美学」の影響を受けていました。彼らにとって、ときにコンピュータは、単なる作品制作のための道具ではなく、「美」を分析するための道具でもありました。

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左から フリーダー・ナーケ《無題(ウォークスルー・ラスター)》、川野洋《無題 (Red Tree)》 いずれも〈Art Ex Machina〉より 1972年 シルクスリーン 個人蔵 ©Gilles Gheerbrant 1972/2022

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ゲオルク・ネース《無題》〈Art Ex Machina〉より 1972年 シルクスリーン 個人蔵 © Gilles Gheerbrant 1972/2022

3 木本圭子:描出の身体とアルゴリズム 木本の作品は、数理アルゴリズムによってコンピュータの座標上に置かれた点群の軌道(attractor)やその座標自体を、自動的に変化させます。この操作を何度も繰り返して、結果を組み合わせることで、時間によって変化する点群を生成します。これをディスプレイ上に表示させることで、人間にとって視覚的な情報であるイメージが描出されるのです。 子供の頃から絵を描くのが好きで、美大を卒業した経歴からは、のちに木本がこのような「非線形数理」を使った作品を制作するとは、考えにくいのではないでしょうか。しかしパーソナル・コンピュータの登場を契機に、木本は数学を使った作品に取り組みはじめることとなります。緊張しながら手を動かし、いかに気持ちの良い描線を描けるか。演算によっていとも簡単に美しい線や絵を描けるコンピュータの存在は、木本にとってこういった描画の行為にあったはずの身体的な緊張感や、できた時の感動を揺るがすものでした。その後、木本が作品で追及したのは、コンピュータの背後にある抽象的な数学の基礎に、身体感覚との接点を見いだすことでした。