2018年1月に580億円という前代未聞の仮想通貨流出騒動で話題となったコインチェックを覚えているだろうか。あの事件によって、当時の仮想通貨市場は急激に冷え込み、ビットコインの価格は200万円台から40万円まで値を下げた。

その後、コインチェックは18年4月にネット証券を手掛けるマネックスグループに36億円で買収されることとなる。当時は、「いくらコインチェックの知名度があるといえども、顧客資産を流出させた取引所を使う人はいないだろう」という反応がほとんどだった。

現に、買収直後に公表されたコインチェック19年3月期の決算資料を確認すると27億4300万円の最終赤字が計上されている。この赤字は当時のコインチェックにおける純資産(自己資本)と同規模の赤字であり、マネックスグループの買収は失敗に終わったかのようにも思えた。

しかし、そのコインチェックが今、マネックスグループにおける「金の卵」となりつつあるのだ。

完全復活のコインチェック

マネックスグループの22年3月期4〜6月の決算資料を確認すると、コインチェックが属する「クリプトアセット事業」は、他の事業セグメントを圧倒する驚愕(きょうがく)の数字がずらりと並ぶ。

コインチェックの四半期の税引き前利益は90億円に。マネックスグループ全体の8割以上を占める稼ぎ頭に(マネックスグループ決算説明資料)

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四半期ベースにおける受入手数料収益は4億7100万円と、前年同期比で570.4%増、販売所のスプレッドによるトレーディング損益は前年比1533.4%増の121億7100万円となっている。

テレビCMを再開したこともあり、販売費及び一般管理費も423.6%増の30億3500万円となっているが、それを差し引いてもクリプトアセット事業全体の最終益はこの四半期だけで89億9600万円だ。前年比で8687.0%の増益という冗談のような決算となったが、これによりマネックスグループ全体も400%を超える増益を果たしており、コインチェックはまさに「金の卵」と言って差し支えない展開となっている。

コインチェックで売買される仮想通貨の売買代金はこの四半期で1兆8155億円だった。販売所の売買代金は2571億円を合わせると、コインチェックだけで2兆円を超える暗号資産の売買を取り仕切っていることになる。売買代金2兆円とは、だいたい東京証券取引所第1部市場における1日あたりの売買代金と同じ規模である。コインチェックは四半期(約90日)で東証1部の1日と同じ規模の売買代金を獲得していることから、コインチェックは東証と比較して90分の1のところにまで迫っていることが分かる。

売買代金だけでみると、コインチェックが東証第1部の90分の1という数字についてそれぞれの捉え方があるかもしれないが、両者を収益面で比較すると、もはや僅差(きんさ)にまで迫られている点に注目すべきだろう。

東証の属する日本取引所グループの22年3月期における営業収益(売上高)は325億円であった。コインチェックの属するクリプトアセット事業の営業収益は121億円だったため、この時点でコインチェックと東証の差は2.6倍に過ぎない。

そして、日本取引所グループの四半期利益は125億円で、クリプトアセット事業の89億9600万円と比較するとほとんど両者に差は存在しない。つまり、収益性の観点からいえば、コインチェックは日本取引所グループとほぼ遜色のない規模にまで成長していることになるのだ。

収益性を左右する2つの要因

コインチェックと日本取引所グループの収益性を左右する要因は2つある。

まずは、「取引手数料の相場が異なる」点だ。日本取引所グループのような金融商品取引所は売買代金に応じていわゆる「場口銭」、取引手数料を徴収するが、その標準料率は0.00002%〜0.00003%(0.2〜0.3ベーシスポイント)と雀(すずめ)の涙にもならない。一方で、コインチェックの手数料は0.1〜5%と日本取引所グループの場口銭に比べ5000倍以上の量率となっている。

コインチェックの営業利益率はなんと71%(マネックスグループ決算説明資料)

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この料率の開きが肯定される理由が、もう1つの要因である「取引所と証券会社が一体となったようなビジネスモデル」にある。そもそも、私たちが株式を売買する際は、東京証券取引所に直接注文を流すことができない。通常、口座を開設している証券会社に注文することで初めて注文が東証に流れるのだ。私たちが証券会社に支払っている手数料には、上記で記した場口銭も加味されているが、その手数料の大部分は証券会社の運営と収益のために徴収されているのである。