こんにちは。SUZURIではひっそりと人間たちに紛れ込んでいる妖怪がしゃどくろです。この記事は SUZURI Advent Calendar 2020 11日目の記事になります。10日目の昨日はSUZURIの無形文化財「モハゑ」の「作字の残骸2020」でした。


みんなが羨ましい

SUZURIのみんなが「羨ましい」と感じることがある。それぞれが情熱を注ぐ趣味を持っていることだ。ゲーム、ポケカ、音楽、カレー、アイドル、アニメ、漫画、スニーカー、写真、ドライブなどなど。

今のぼくには趣味と呼べるものがない。

あえて「今」と書いたのは、かつてぼくにも趣味と呼べるものがあったからだ。しかしもうかれこれ7、8年もの間、情熱を注ぐことができる趣味がない。正確に表現するならば、情熱を注ぐことができる何かを見つけられないでいる。探し求めているのだけど、一向に見つけることができないでいる。

そんなものなくても問題ないだろうという人もいる。しかし、僕にとっては単なる困りごとで済ますことができない。見たことのない形の怪物を、心の奥底に抱えているような、そんな不安を感じずにはいられないからだ。

かつてぼくは写真を撮ることに夢中になっていた。フィルムの時代だ。銀塩と呼ばれていた頃のこと。暇さえあれば写真を撮りに出かけた。何台ものボディを揃え、何個ものレンズを買い求めた。現像、プリントしたフィルムの数は計り知れない。プリントも自分でやっていた時期があるので、現像液や印画紙の類も半端なく消費した。地方都市ならちょっとしたマンションが買えたんじゃないかって思う。

でもやめてしまった。所有していた機材もほぼ手放した(PENTAX LXだけは手放してしまったことを今でも後悔している)。デジタル化の波に乗り遅れたことが大きな理由だ。

これは余談なのだが、一時期不安定なことがあって、毎日会社に行く理由を見つけたくて、出社した時は決まった場所からオフィスビルの写真を撮るということをやっていたことがある。定点観測。晴れた日は青空をバックに、雨の日はビニール傘越しに。いつも同じところから同じような角度で。撮影した写真はFlickrにアップロード。続けていると不思議とそれが会社に行く理由になっていつのまにか余計なことを考えなくなった。心のリハビリ。

写真を撮ることもなくなったある日のこと。心の片隅に見たことのない形の怪物の存在を感じた。情熱を捧げられるなにかを見つけないといつまでもこいつを飼い続けることになる。そのことはぼくに不安をもたらした。なんとかしたい。なんとかしなければ。そう思うようになった。そうやってぼくの趣味探しがはじまった。その過程でトライしたいくつかのもの紹介しようと思う。

苔からデモゴルゴン

苔に興味を持ったのは、友人の家に遊びに行ったことがきっかけだ。友人は苔が好きで、苔玉や苔テラリウムを数多く所有していた。なかでも電球を使ったテラリウムを見せられた時、こんなことができるんだと感動した。

それに、なによりもまず光を浴びたときの苔の緑色が美しかった。こんなに美しい緑が世界に存在することをその時まで知らなかった。

さっそくぼくは黒松の苔玉を買い求め、愛でる日々が始まった。

でも長くは続かなかった。

ある時ぼくは苔玉の表面になにやらうごめくものを目にした。虫だとわかったとき、心臓が止まるほどの恐怖をおぼえ、しばらく体が硬直し身動きが取れなかった。

デモゴルゴンだったらどうしよう。知らないうちに得体のしれない巨大な生物に成長したらどうしよう。夜中に襲われたらどうしよう。恐怖がかけめぐった。

そしてぼくはベランダの片隅に放置した。数日後、松は枯れ果て苔は干からびた。(ストレンジャー・シングスでデモゴルゴンなるものを知ったのはそれから何年も後のことだけど)

囲碁で自己嫌悪