目的

単純再認3(計算段階ランダム実施) に刺激セットのランダム割り当てを追加します。

なぜ刺激セットのランダム割り当てを行うのか?

一通りの単純再認実験が作成できていますが,この課題を用いて実際に実験ができるかというと,そう簡単にはいかない問題があります。前回作成した課題を振り返ると,学習段階に用いる学習単語と再認段階で用いる新奇単語を以下のように設定していました。

このように,前回作成した課題では,学習単語と新奇単語が固定されているわけです。したがって,この課題で実験を行い,データを収集したとしても,この固定された組み合わせという限定条件で得られたデータとなってしまいます。より一般化したデータを集めるためには,せめて,学習単語と新奇単語を逆にした場合の検討が必要でしょう(もちろん,単語プールを用意して,ランダムに学習単語と新奇単語をサンプリングするという手法も利用できます)。このように,刺激の条件への割り当てによる影響を相殺することをカウンターバランスを取ると表現します。具体的に今回の場合だと,果物10単語を,5単語からなるリストAに割り当て,残りの5単語をリストBに割り当てます。そして,どちらかのリストを学習単語に割り当て,残りのリストを新奇単語に割り当てるという操作を参加者ごとに実施します。このような刺激の割り当ての種類を「セット」と表現します。例えば,セット1として「学習単語:リストA,新奇単語:リストB」,セット2として「学習単語:リストB,新奇単語:リストA」という2つのセットを用意し,参加者ごとにいずれかのセットを割り当てるという操作を行うことでカウンターバランスを取ります。なお,記憶研究では,伝統的にカウンターバランスを取る研究が多いと思いますが,その背景にはリスト内・リスト間で刺激の様々な特性を統制してるためだと考えられます。

しかし,ここまで書いておいてなんですが,オンライン実験ではカウンターバランスを取ることは実際には難しいので(詳しくは以下のボックス参照),今回は刺激セットのランダム割り当てを実装します。

<aside> 📝 (フル)カウンターバランス ≠ 刺激セットのランダム割り当て  今回は刺激セット(刺激をどの条件に割り当てるかの組み合わせ)を参加者ごとにランダム割り当てるという操作を行っていますが,この操作はカウンターバランスとは異なる操作です。特に「フルカウンターバランス」と呼ばれる刺激セットの組み合わせ数の倍数の参加者を集め,各参加者に均等にいずれかのセットを割り当てるという操作ではありません(例えば,セットが4つあれば,4の倍数となる40名の参加者を集める)。対面実験では参加者1人1人が最初から最後まで参加してくれるためフルカウンターバランスを実現可能ですが,オンライン実験では参加者の途中離脱も起こりうるため,ランダムに刺激セットを割り当てることで刺激の影響を低減しようと試みています。ですので、対面実験であれば(頑張ればオンライン実験でも?),今回紹介する方法を少しアレンジして,参加者番号を連番にした上で参加者の脱落への対応ができれば,フルカウンターバランスを実現することは可能です。

</aside>

刺激セットのランダム割り当て(skip利用)

刺激のランダム割り当てを実装する方法として,skipを利用した方法とscriptsを利用した方法があります。まず,skipを利用した方法を紹介します。この方法の方がコードを書く量は少ないのですが,Sequenceが増えるのでやや混乱しやすいかもしれません。

さて,skipについては,前回の計算課題のランダム実施を思い出してください。参加者番号のランダム生成を行い,その参加者番号が偶数か奇数かで条件分岐を行いました。刺激セットのランダム割り当ても同様にskipを用いて実装することができます。まず,前回の実験プログラムを開いてください。そして,以下のような操作を行ってください。

まず,Sequenceを作成し,名前は「set1」としてください。そして,プログラムの学習段階から再認段階までをこのSequenceとしてまとめてください。各SequenceやLoopを展開しているとわかりにくいので,含めるSequenceやLoopは格納(collapse)するとよいです。そうすると,以下のようになります。

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次に,set1をまるごと複製してください。set1右の▼をクリックして,Duplicateを選ぶことで複製できます。そして,複製したset1の名前をset2に変更してください。これで2つの実験が作成できたので,set1とset2に異なる学習刺激と新奇刺激を割り当てましょう。今回は2つのリスト(リストA,リストB)を用いることにし,学習刺激と新奇刺激にリストAとリストBを割り当てます。

set1は学習単語にリストA,新奇刺激にリストBを割り当てることにし,set2はその逆(学習刺激にリストB,新奇刺激にリストA)の割り当てにします。それぞれ,learningPhaseとrecognitionPhaseのパラメータに含まれるwordの値を変更する必要があります。今回,set1はそのままで大丈夫なので,set2だけ刺激を変更しておきましょう。実際に作成する場合は,Excelなどで刺激割り当てセットを作成しておいて,インポートするだけの方が楽でしょう。set1,set2の学習段階と再認段階のパラメータは以下のようになります。

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