生命の庭―8人の現代作家が見つけた小宇宙

私たちは、太古の昔にひとつの生命体として誕生して以来、刻々と変化する地球の過酷な環境に柔軟に適応することで進化を遂げ、高度な知性を獲得するに至りました。

https://www.youtube.com/watch?v=klVxcKnW8mU&feature=emb_title

その一方で、仮想現実に囲まれた日々の暮らしの中で、ともすれば自分たちが自然の一部であることさえ忘れがちです。

コロナ禍により、自然との新たな関わり方が求められている現在、私たちが本能的に有している感覚を取り戻す手段として、アートの役割が注目されています。意味や目的に縛られないアートは、私たち人間もまた、大きな生命の流れのなかにいることに気づかせてくれるからではないでしょうか。

本展は、緑豊かな自然に囲まれた旧朝香宮邸を舞台に、日本を代表する8人の現代作家たちの作品を通して、人間と自然との関係性を問い直す試みです。絵画、彫刻、映像、インスタレーションなど個性豊かな作品の数々は、私たちの意識の彼方にある世界の覆いをそっと外してみせてくれることでしょう。大都会の中に佇む小さな箱庭のようなこの邸宅で、私たちのなかにひそむ自然が甦る瞬間が到来するかもしれません。

https://tmtkknst.com/LL/blog/2019/02/06/nostalgia_amnesia/

少し開いた戸の向こう側 - 志村信裕《Nostalgia, Amnesia》(2019)

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青木美歌 | Mika Aoki

1981年 東京都生まれ武蔵野美術大学工芸工業デザイン科ガラス専攻卒業Royal College of Art / Ceramics and Glassコース修士課程修了ポーラ美術振興財団在外研修生としてアイスランドにて研修

学部一年時に出会って以降、ガラスを通した不可視な世界との関係を問いながら制作を続けてきた。大学卒業後は文化庁新進芸術家海外研修制度にてイギリスへ留学し、修士号を取得。国内では2008年に第11回岡本太郎現代芸術賞展に入選した。「ある」のに「ない」ように感じるガラスの特性は、見えない世界だけではなく生命の循環をも映し出す。青木の扱う菌類、ウイルス、細胞といったミクロなモティーフは、目に見えるもの、見えないものその全てが相互に関連しあい変容しながら存在している生命の有りようを表現している。本展では旧朝香宮邸および新館ギャラリー2にて、新作インスタレーションを含む展示を行う。

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青木美歌《あなたと私の間に》 2006photo: Yusuke Sato

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青木美歌《煙庭》2019展示風景、「時を超える:美の基準」元離宮二条城photo: Yuto Hirakakiuchi
淺井裕介 | Yusuke Asai

1981年 東京都生まれ1999年 神奈川県立上矢部高等学校美術陶芸コース卒業

植物をマスキングテープに耐水性マーカーで描く「マスキングプラント」や滞在場所で採取された水や土を使った巨大な「泥絵」、道路用の白線素材から動植物の形を切り出して、バーナーで焼き付ける「白線になった動物」シリーズで知られる。近年は、鹿の血を絵の具とした作品や油絵にも取り組んでいる。淺井は動物、植物、宇宙など、人間と自然の関係から論じられることが多い。彼が得意とする動植物は画面に隙間なく併置され、大きな動物の中に入れ子状に小さな動物が現れ、ミクロの中にマクロが存在するこの宇宙の生態系を表していると。だが、正確には作品制作における自然は三つの異なるもの(素材、モティーフ、環境)から構成されている。それらの異なる自然へのアプローチが制作の中で積み重なり、一つの作品を成立させているのだ。本展では、自然からさらに「野生」へと関心を深める淺井の作品を展示する。

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淺井裕介《野生の星》2019ⓒYusuke Asai photo: Takafumi Sakanaka courtesy of Art Center Ongoing, ANOMALY

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淺井裕介《空から大地が降ってくるぞ》WULONG LANBA ART FESTIVAL 2019 展示風景 2019ⓒYusuke Asai courtesy of the artist, WULONG LANBA ART FESTIVAL 2019, ANOMALY
加藤泉 | Izumi Kato

1969年 島根県生まれ武蔵野美術大学造形学部油絵学科卒業近年は美術作家によるバンドTHE TETORAPOTZ(テトラポッツ)でも活動中

大学で油絵を学んだのち、数年のブランクを経て、建設現場で働きながら制作を再開した。胎児のような「人型」を描いた油彩画で注目され、2004年頃からは人型を模した彫刻制作にも着手しはじめた。2007年にはヴィネツィア・ビエンナーレ国際美術展に参加するなど、その活動は国際的なものとなった。制作の中心に絵画をおく加藤は、外的な世界のなかに置かれた途端、図として機能する彫刻の「自然な」存在感に対して、絵画は世界とは矩形に区切られることで「不自然な」在り方をすると述べている。人型とはその両者を行き交うための媒介者なのである。本展では、当館を舞台として、絵画、彫刻に収まらない多様な素材を用いた作品を展示する。

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加藤泉《無題》2019photo: Ringo Cheungcourtesy of Perrotinⓒ2019 Izumi Kato

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加藤泉《無題》2019「CONTACT つなぐ・むすぶ 日本と世界のアート」清水寺(西門)京都 2019年での展示風景 photo:高嶋清俊courtesy of The Contact / Connect Exhibition Executive Committee ⓒ2019 Izumi Kato
康夏奈 | Kana Kou

1975年 東京都生まれ2002年 広島市立大学芸術学部デザイン工芸学科卒業2006年 アーティスト・イン・レジデンス・プログラム、ロサンゼルス2020年2月末 当美術館での展示企画進行中に逝去

山や海へのフィールドワークによる身体経験から醸成された記憶をもとに風景をモティーフとする作品を制作してきた康夏奈。2013年にはVOCA展に入選、また瀬戸内国際芸術祭には《花寿波島の秘密》を出展し、話題を集めた。小豆島に移住後は、当地の植物や石などの自然の素材をモティーフに制作してきた。2016年に作家名を吉田夏奈から康夏奈に変更。一見、「崇高さ」の表現にも映る康の作品であるが、実際には大いなる自然をロールプレイングゲームの主人公=プレイヤーのように作家が(追)体験するための道具立てに近い。ゆえに作品は鑑賞者にプレイを喚起するものとなる。それはパノラマの固体化ともいうべき、砂漠の植物を模した《コズミックカクタス》にも共通し、また初期の映像作品《SHAKKI -black and white on the lake》においてすでに予見されていた。本展では上記二つの作品に加え、自然のパノラマ感を感じさせる作品を展示する。

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康夏奈《花寿波島の秘密》瀬戸内国際芸術祭2013-2019photo: Yasushi Ichikawa

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康夏奈《Cosmic Young Girl Rafflesia》2016courtesy of the artist’s family and ArtTank, photo: Art Front Gallery
小林正人 | Masato Kobayashi

1957年 東京都生まれ東京芸術大学美術学部油画専攻卒業1997年 キュレーター ヤン・フート氏に招かれ渡欧

国立、ゲント、鞘の浦へアトリエを移動させながら、木枠、画布、絵を同時に組み立て/解体し、絵画と場所、光の関係性を扱う、いわば「存在論」的な問いを自らに課してきた。1997年にはヤン・フートの招きでベルギー第三の都市ゲントに移住し、彼の代表作の一つ「床置き絵画」が制作された。またこの頃より、小林は周囲の環境、あるいは「この星の…」と彼が表現する、あらゆるものの関係の全体を「絵の家族」として繋がり合うものと考えるようになった。本展では白い画布を木枠に張ってから何かを描きだすのでは「遅い」という考えに突き動かされ、80年代よりキャンバスを張りながら手で立ち上げるように描いてきた小林の絵画のほか、当館に注ぐ光を生かした展示をする。

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小林正人《画家の肖像》(部分)2019copyright the artist. courtesy of ShugoArts.

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小林正人《この星へ》2009copyright the artist. courtesy of ShugoArts.
佐々木愛 | Ai Sasaki

1976年 大阪府生まれ2001年 金沢美術工芸大学美術学部デザイン科視覚デザイン専攻卒業2010年 ポーラ美術振興財団在外研修生としてオーストラリアに滞在

各地の風景や伝統的な紋様/物語を着想源として、版画や油彩、ドローイングを制作してきた。2010年にはポーラ美術振興財団在外研修生としてオーストラリアに派遣、そのほか海外でレジデンスを経験した。なかでも「あいちトリエンナーレ2016」で制作されたロイヤルアイシングという手法を用いた砂糖による壁画は、佐々木のひとつの代表作である。展示期間を過ぎると、その壁画は壊されるために鑑賞者の記憶のなかだけに生き続けることになる。残り続けるのではなく、「忘れられてゆくこと」の心地よさを体現しているかのようだ。本展では、当館にまつわる素材、モティーフを用いて滞在制作した作品を中心に展示する。

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佐々木愛《残された物語》2012Photo: 山本糾「開港都市にいがた 水と土の芸術祭2012」角田山妙光寺、新潟(2012年7月14日-12月24日)

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佐々木愛《見つけられた山》2015
志村信裕 | Nobuhiro Shimura

1982年 東京都生まれ武蔵野美術大学大学院造形研究科映像コース修了2016-18年 文化庁新進芸術家海外研修制度によりフランスに滞在

初期にはスニーカーやボタンなどの実写映像を白いスクリーンではなく身近な場所や日用品に投影し、その空間の性質や集う人々の交流の質に介入する多くはパブリックでサイトスペシフィックな作品を、また2015年の《見島牛》以降には、フィールドワークを基にした比較的ストレイトなドキュメンタリー映像を制作してきた。一見、両者の方法は異なってはいるものの、ある制度や慣習のなかで忘却されゆく記憶や歴史=物語を、場所に対する映像の投影、またショットとショットのモンタージュによって、重ね合わせて幻視させる構造は共通している。本展では空間への映像プロジェクション、また羊と人間の関係を主題にしたドキュメンタリー映像や、当館の空間からインスパイアされた作品を展示する。

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志村信裕《Nostalgia, Amnesia》(Video still)2019courtesy of Yuka Tsuruno Gallery

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志村信裕《光の曝書》2014千葉県立美術館での展示風景photo: Ken Katocourtesy of Yuka Tsuruno Gallery
山口啓介 | Keisuke Yamaguchi

1962年 兵庫県生まれ武蔵野美術大学卒業

大型の腐食銅版画でデビューし、1992-93年の滞米をきっかけに原子力への関心を高め、95年の渡独後には《原子力発電所》シリーズ、97年には自立式絵画連作「Colony」、花や種子を天然樹脂で固めた「カセットプラント」の制作を開始した。また東日本大震災発生の3日後からは原発に関するニュースを中心に書き写す日記《震災後ノート》が始められ、現在まで記入が続いている。こうした作品制作に並行して、山口はゲーテやベンヤミン、三木成夫らの理論を参考に哲学的論考を多く執筆してきた。本展では生花と造花を用いて、自然と人工を対比させる「カセットプラント」、それらをアナロジカルに結びつける絵画作品を展示する。

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山口啓介《花の心臓/蘭、紫の雲》2002photo: 高嶋清俊

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山口啓介《植物の宇宙―時間 Cassette Plant Workshop in Toyota 2014-15》2015豊田市美術館での展示風景 photo: 澁谷征司