私は何も持たないまま家を飛び出した。

とにかく走った。行き先も決めずにがむしゃらに走った。

気づいたら電車に乗っていた。

乗ったときには隣の人と肩が触れるくらいの距離にいたのに気づくと周りの人はまばらになっていた。

家から出るとき涙で周りが見えないくらいだったから乗ってる人のことなんて気にならなかった。

ふと、外の景色を見ると海が見える。

「あぁ、結構遠くまで来たんだ」

次の駅で降りてみた。着の身着のまま飛び出したつもりだったけど、さすが現代人、無意識にスマホは持っており無事に電車賃を払うことができた。

駅の周りは閑散としている。この駅で降りたのは初めてだ。

「ちょっと歩いてみようかな」

駅を出て、潮のにおいがする方へ歩いてみた。

だんだんと波の音も聞こえてくる。

海辺に着くと、キラキラと輝く水面が目に飛び込んできた。

近くのベンチに腰掛けて海を見る。

海をただじっと眺めているとだんだんと水面か涙かわからなくなってきた。

周りには浜辺で遊ぶ子どもたち、犬と散歩しているご婦人、ウォーキング中のご老人、いろんな人がいた気がしたけれど、人目をはばからず泣いた。

「あぁ、また思い出す…」

デートしているカップルが特にまぶしく見えた。