筆が乗ってするすると書いていたときのような文章は今かけないかもしれない、というなんとなく抱えている不安を文章にしている。文章を書くことは好きだが、あの筆が乗っているとき、文章をしたためて、ぼくの中にある何かを文章にしたくてたまらない気持ちにいつでもなれるわけではない。
自分は今そういう衝動にまみれていないから、特に文章を書きたいという気持ちが浮かばない、ということを文章にしてあげればいいのかもしれない。無理に書く必要もない。公開する必要もない。でもなんとなく書きたい。そんな気持ちを今したためている。 今なんとなく二日酔いが抜けているのか抜けていないのかよくわからないような心持ちでいるため、自分の文章を書くために普段なら100%活用できている脳内のリソースを今は60~70%くらいしか活用できていない気配がある。そんなことは自分が文章を書くときにも、書いた文章を誰かが読むときにも何も関係ないことではあるが、日記という意味では、あの日あの微妙な気配の体調でこんな文章を書いたなあということを想起するためのきっかけになれば、それはそれで意味があるのかもしれない。 日記なので意味がなくても良い。意味があったらちょっとだけ嬉しい。でもこうやって書いていたら、ちょっとだけ書きたい気持ちが底の方から浮かんできたから作業興奮って本当にあるんだなあとかしみじみし始めている。
作品についての自分の心・魂の動きを捉えたいという欲求がぼくにはあるのだが、それを他人と共有することはぼくにとってちょっとした羞恥を伴う行為だ。それはぼくがTwitterでのつぶやきを対面したことのある友人にみられているのと同じくらいの気軽な恥じらいなのだが。
自らの魂の動きについて他人に説明することは一種の愉悦を伴う行為でもあるけれど、それは相手が自分の魂について興味があるという前提のもとに成立する行為でもある。 先日「自分に最も影響を与えた作品5選は?」という問いに出くわし、頭を抱えながら悩んでいた。 そもそも昨今「好き」とか「影響を受けた」と宣言することのハードルが高くなっているように感じる。作家であれば、その作家の作品は全作読破していて当然、なおかつ詳細なあらすじについても語ることができ、それぞれの作品に対する持論・解釈が述べられる。音楽であれば歌詞は諳んじていてなおかつ各アルバム曲もシングル曲もカップリング曲も全部マスターしていないと……というような熱量を伴っていないと、「好き」とか「影響を受けた」と宣言することを躊躇われるような気配を感じる。論理的には、どんな気軽な「好き」も「影響を受けた」も表明したって何の揶揄が発生してはならないし、誰のどんな好きも同じように尊重されるべきだと理解している。
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好きなものを好きっていうのって怖い
そう、怖いんだ。
あなたはどのくらいの質量でこれが好きなの? あなたはどうしてこれが好きなの? あなたの何がこれを好きと思わせたの? 関連するエピソードは? とか。
ぼくの魂や感性や内臓に関する無数の問が発生しうるトピックだから怖いのかもしれない。 自分がまだうまく言語化できないことを他人からの問いかけによって明らかになるのが怖いのかもしれない。 自らにとって大切な作品や大切な思考を、自分主導ではなく他人主導で整理されたり引き起こされたりするのが怖いのかもしれない。 自分のことは自分が一番わかってあげたいから。他人から見た自分の考えや好きを整理することは、他人から見えた自分の考えや好きを整理することにしか相当しないんだけれど、自分に見えているものと相手に見えているものの違いについて説明を始めようとすると、相手に自分の全てを引き受けてもらうような一種の傲慢さが自分に必要になる気がしていて、それはぼくがやりたいコミュニケーションではない。 他人と自分の共通部分を探ることで、他人と自分の境界の在り処を互いに探り、自らの輪郭をより明確に捉えたいんだろうなあ。
ぼくは音楽でも、作家でも、作品でも、全作品完璧に聴き込んで読み込んで自らに溶け込ませた、と言い切れるようなものはない。でも好きなものは好きだし、影響を受けたものは影響を受けている。いつも好きというとき、影響を受けているというとき、ちょっと後ろめたさを感じている。
ぼくの好きはあの人の好きよりも小さいんじゃないか。 熱量が伴っていないんじゃないか。
そんな後ろめたい気配がいつもある。 でも、それでも自分にとって大事な作品であることは確かだし、自分のことをより正確に描写してあげるためにはこれを好きだと言うしか選択肢はない。というかぼくにとっての好きがどんな好きかとか、どんな距離感で接しているこの作品が好きなのかはぼくにしかわからないし、まさにそういう箇所について自ら語ろうとする姿勢がぼくにとっての作品への誠実さというか、自分の好きがいかに好きなのかを解像度高く捉えてあげることにもつながるよな、とか思うなどした。
5選はひとまず 「少女ファイト」日本橋ヨヲコ 「クビキリサイクル」西尾維新 「キッチン」よしもとばなな 「空白を満たしなさい」平野啓一郎 「ひとりが好きなあなたへ」銀色夏生 に落ち着いた。それぞれについては別途また書きたい。