MOTアニュアルは、若手アーティストの活動を通じて、国内の現代美術の潮流のひとつを紹介するグループ展として、1999年から開催されてきました。今回で17回目を迎える本展では、未だ収束を見ないパンデミックによって複数の社会問題が顕在化した世界で、国や地域を超えて共鳴する若手アーティストたちの同時代的な表現や問題意識を提示します。本展で紹介される小杉大介、潘逸舟、マヤ・ワタナベは、映像を主なメディアとしながら、自らや他者の身体表現を取り入れた作品で、社会のシステムや規範と対峙する人々の葛藤や応答の身振りを描いてきました。ある風景の中の身体の現れや不在の意味を、その社会的背景や歴史的文脈を掘り下げながら批評的に考察する彼らの実践はまた、映像表現そのものの追求を通じて、私たちの生が根源的に関わる時間や空間に対する洞察を提示します。本展はそのような作品群を通して、現代を生きるひとりの主体としての私たちの主観性を形作るものは何かを問うと同時に、私たちは、映像であれ、社会であれ、自らであれ、何を見ているのかだけではなく、いかに見ているのかという問いを投げかけます。作品リスト

小杉大介《異なる力点》49' 40"上映開始時間: 10:10/ 11:05/ 12:00/ 12:55/ 13:45/ 14:35/ 15:25/ 16:15/ 17:05

展覧会のみどころ

1 国際的な活動で大きく期待される若手アーティスト3名を紹介今回日本で初めて紹介されるオスロ在住の小杉大介と、現在アムステルダムを拠点とするマヤ・ワタナベは、どちらも各国の国際展や映像祭などで取り上げられ、注目を集めている若手アーティストです。昨年の日産アートアワードでグランプリを受賞した潘逸舟も、今後のさらなる活躍が期待されています。本展では彼らの新作を含めた複数の作品を展示し、近年の活動の軌跡を提示します。

2 身体表現と映像表現を横断するアーティストたちの豊かな表現本展で取り上げられるアーティストは、映像表現と共に身体表現にも関わりながら、身体とその内的領域をいかに捉えるかという問題を掘り下げてきました。小杉大介は、普遍的な身体を規格とした建築の居住空間に相入れない身体の葛藤を、父と子という個人的な関係から静かに見つめた《異なる力点》(2019年)を展示します。また新作として、繰り返し再生されるトラウマの恐怖や痛みを身体がいかに再体験するかを、フラッシュバックを風景として辿りながら探る映像作品を発表します。潘逸舟は、幼少期に上海から移り住んだ青森で行ったパフォーマンスを記録し、二つの国家の間で揺れ動く主観性を詩的に描いてきました。本展では、これまでの映像作品と新作を合わせ、インスタレーションとして展示します。マヤ・ワタナベは、現在も究明や裁判が続いている、自国ペルーの内戦の記憶の問題を探求してきました。彼女の近作から、過去と現在の間で宙づりになった風景を捉えた《風景Ⅱ》(2014年)、身体に刻まれた抑圧の痕跡を照らし出す《境界状態》(2019年)を展示します。

3 揺れ動く現代社会における生を見つめるアーティストたち現代のさまざまな生と向き合いながら、綿密な調査や人々との協働を通して制作された作品は、私たちが社会でいかに生き、生かされているのかを問うものでもあります。世界的な公共衛生の危機により、個に対してより強化した公的な統制力、これまでにも増して顕在化した人々のつながりと分断、一層と拡大する不平等などの世界共通的な課題を、身体という最も根源的な場を通して考える視座を提示します。

参加作家

小杉大介|Daisuke Kosugi1984年東京生まれ、オスロ在住。2014年オスロ国立芸術大学卒業。社会を制御するシステムの中で揺れうごく主体の表出に関心を寄せ、映像を中心に、パフォーマンス、テキスト、サウンド、オブジェなど幅広いメディアを用いて制作を行っている。小杉の家族や他のアーティストとの協働を通じて制作されたこれまでの映像作品は、フィクションとノン・フィクションを行き来しながら、個が経験する葛藤や不自由がもたらす身体的、精神的痛みの伝達(不)可能性を問う。これまで、ノルウェー各地の他に、ジュ・ド・ポーム国立美術館(フランス)、CAPCボルドー現代美術館(ボルドー、フランス)、アンパロ美術館(プエブラ、メキシコ)、光州ビエンナーレ(韓国)などで展示を行い、各国の映画祭で作品が上映されている。また、ヨーロッパ各地でのレジデンスにも参加している。

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小杉大介《異なる力点》2019年
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小杉大介《すべて過ぎる前に忘れて》2021年

潘逸舟 |Ishu Han1987年上海生まれ、東京在住。2012年東京芸術大学美術研究科先端芸術表現大学院修了。映像、パフォーマンス、インスタレーション、写真などのメディアを用い、共同体や個が介在する同一性と他者性について考察してきた。作品の多くは、幼い頃に上海から青森に移り、日本で生活してきた潘自身の経験や視点がベースとなっている。誰もが見たことがあるような風景に浸透した「日常」にパフォーマティブな行為で切り込む映像や日用品を用いたインスタレーションは、共同体の自明性を問い、私たちの行為や眼差しに内在するイデオロギーや規範を示唆する。これまで日本国内各地の他に、ボストン美術館(アメリカ)、ユダヤ博物館(アメリカ)、上海当代美術館(上海、中国)などで展示し、オーストラリアとアメリカでアーティスト・イン・レジデンスに参加。昨年、日産アートアワード2020グランプリ受賞。

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潘逸舟《戻る場所》2011年
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潘逸舟《波の収穫》2021年

マヤ・ワタナベ|Maya Watanabe1983年リマ生まれ、アムステルダム在住。現在ロンドン大学ゴールドスミス・カレッジ博士課程在籍。ワタナベの映像インスタレーション作品は、人間や他の生物の身体とその物質的変化を微視的かつ抽象的に捉え、生と死の一回性を洞察してきた。また、生を貫通する人間や自然の力を想起させる風景や光景を描きながら、人間の知覚や想像力、記憶の限界を示唆する。近年はそのような手法を用いながら、1980-1990年代に自国ペルーで続いた政治的混乱に光を当て、社会と人々の内に未だ深く浸透している抑圧と暴力の発露を試みている。ワタナベはこれまで、国立21世紀美術館(イタリア)、パレ・デ・トーキョー(フランス)、リマ現代美術館(ペルー)、ハバナ・ビエンナーレ(キューバ)など数多くの国や地域で展示を行い、演劇の舞台美術や視覚/音響の演出も手掛けている。2017年には京都芸術センターでのアーティスト・イン・レジデンスに参加し、2018年にはハン・ネフケンス財団のARCOマドリッド・ビデオ・アート・プロダクション・アワードを受賞。

![<https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/images/New%20work_Bullet%20still%2003%2B.jpg>](<https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/images/New%20work_Bullet%20still%2003%2B.jpg>)

マヤ・ワタナベ《銃弾》2021年 Produced by Multiverso with the support of Mondriaan Fonds and the Museum of Contemporary Art Tokyo
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マヤ・ワタナベ《風景Ⅱ》2014年 展示風景Image courtesy of Livia Benavides gallery